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余白をつくるHTN理論

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平岡 拓・田島 一毅・西辻 陽平

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1.背景

近年、生成AI技術が急速に進展し、さまざまな分野でその可能性が注目されている。しかし、その普及が進む一方で、生成AIが引き起こす能力格差の拡大や過度な期待に対する失望感も増している。特に、生成AIの活用能力が高いアーリーアダプターと、活用能力が平均的なマジョリティの間で格差が広がりつつある。本稿では、生成AIを幸福度(GNH)の最大化を目指した技術として位置づけたうえで、生成AIを社会実装するにあたっての課題とその解決策について考察していきたい。

2.目的

本稿は、生成AIを利用して資本主義社会における能力格差を縮小し、より多くの人々が技術の恩恵を享受できる社会を目指すこと主張する独自の理論として、HTN理論を提唱することを目的とする。HTN理論は、メリトクラシー的な価値観からの脱却を図り、生成AIが労働者個々人の能力に依存せず、テクノロジーを活用した生産性向上と、所得増加を推進するための基盤を提供することを志すものである。

3.HTN理論の原説

HTN理論の核心には、「労働者個人の成長に期待しない原則」と「生成AIも過度に期待しない原則」がある。近代の労働環境では、生産性の向上を個人に依存させることは、能力格差を助長する要因となる。HTN理論は、構造的な課題としてプロダクトによる自動化を目指し、生成AIの現在の性能や法律・倫理を理解しながら、段階的なプロセスを積み重ねるアプローチを取る。

4.HTN理論における7つの視点

① 生成AIが考慮すべき壁と技術

生成AIの普及には、いくつかの重要な障壁が存在する。これらの壁を克服するためには、以下のような要素技術とアプローチが求められる。

  • インセンティブの壁:
    生成AIの導入によるメリットが労働者個人に提供するためには、適切なインセンティブ設計が必要である。例えば、生成AIがもたらす生産性向上を定量化し、それに応じて報酬を再分配する仕組みを整えることが重要である。これにより、労働者のモチベーションを維持し、技術の受け入れと活用を促進する。
  • 要件定義の壁:
    生成AIを業務活用するには、適切な使い所を見極めなければならない。生成AIの得意さを理解し、通常業務のどの領域で効果的なのかを現場が自ら判断することは難しい。AIが単なる指示待ちにならず、ユーザーの要求を適切に解釈し、自律的に動くためのシステム設計が必要である。
  • 実装の壁:
    生成AIを便利に活用するには、使い所を見極めた上で、期待するアウトプットが出るまでパフォーマンスチューニングをする必要がある。特に現場の感情を考慮すると、第一精度(初期アウトプットの精度)をいかに高められるかが重要になる。これに加えて、いいアウトプットが出なかった時の修正体験をスムーズにすることで、クイックウィンを確実に現場に届けることができる。
  • 実用化の壁:
    多くの場合生成AIの成果物はテキストや画像、動画などのモダリティである。しかしそれだけで終わる仕事は少なく、実際はE2Eで仕事が終わらないと実用化しても便利にならないシーンが多い。生成AIが実際の業務において効果を発揮するには、各種ツールと連携したE2Eのタスク実行能力が求められる。

② AIエージェントのシステム構造

生成AIを効果的に活用するためには、エージェントのシステム構造が鍵となる。このシステムは、すべてのタスクをAIに任せるのではなく、細かく分けられたスキルをコンポーネント化するアプローチを取り、ヒューマンインタラクションを前提に設計されるべきである。スキルとは、SサイズからMサイズのミクロなプロセスを解決するワークフローを指し、それらをチェーンすることで、Lサイズのプロセスを構成する。

  • 過渡期の精度向上:
    生成AIが未成熟な段階でも、スキルを積み上げることで、プロセス全体の精度を確保できる。これにより、AIの進化に応じて段階的に性能を向上させつつ、実用化を進めることが可能である。
  • スキルの連携:
    これらのスキルを適切に連携させることで、複雑な業務をスムーズに処理することができる。システムの柔軟性を高め、生成AIの導入を促進する。

③ スキル:ミクロなプロセスモデル

生成AIの導入には、ミクロなプロセスレベルでのスキルの管理が重要である。具体的には、Sサイズのプロセス(簡単な処理)からMサイズのプロセス(中規模の処理)までを定義し、それを積み重ねてLサイズ(大規模プロセス)を実現する戦略が求められる。

  • プロンプト、リクエスト、ディザイアの階層化:
    タスクをプロセスレベルで分類する際、低度な要求を「プロンプト」、中段のものを「リクエスト」、最終的には「ディザイア」として階層化する。この階層をもとに、生成AIは小さなタスクから大きなタスクまでを効率的に処理することができる。余談ではあるが、エージェントとは、リクエスト以上のプロセスレベルに対応する存在だとも言い換えられる。
  • リアルタイム全生成 vs. プリセットルーティング:
    生成AIが全てのタスクをリアルタイムで計画するのは精度が出ずらいため、プリセットされたスキルを用いたルーティングが実用化に向いている。生成AIは業務における曖昧性を吸収できることが強みであるが、裏を返すと100%の精度は保証できないと言う弱点がある。我々は人間によってプリセットされたルールベースのワークフローを生成AIにルーティングさせることにより、生成AIの弱点を補い、安定したプロセス処理を提供することができる。

    ④スキルの集合知

生成AIのスキルを本当の意味で集合知とするためには、iPaaS機能(ノーコードでスキル開発を叶えるGUIサービス)の進化とCopilot機能(業務遂行時の人間と生成AIの最適なインターフェイス)の活用が必要である。

  • 市民開発者の拡大:
    iPaaS機能の進化により、市民開発者が生成AIのスキルを開発・共有できるようになり、スキルの増加速度が向上する。これにより、多様なニーズに応じたスキルの蓄積が進む。
  • タスクマイニングとスキルマッチング:
    Copilot機能の進化により、ユーザーの課題を適切に分析し、最適なスキルとマッチングすることが可能になる。これにより、生成AIのスキルが広く活用され、実用化が加速する。

⑤ イノベーター理論における境界条件

生成AIが普及し、キャズムを超えるためには、4つの要素技術(インセンティブ設計、要件定義、実装、実用化)が一定のレベルに達している必要がある。

  • 境界突破のための技術的要件:
    生成AIエージェントが市場での信頼を獲得するには、これらの要素技術がそれぞれ実用化に向けて部分的に達成されていることが求められる。特に、エージェントが労働者にとって安心して使える技術であると認識されることが重要である。
  • 並列的な機能検証:
    生成AIの導入においては、各要素技術の成熟を待たずに並列で検証を進めることが求められる。これにより、技術導入のスピードを上げ、マジョリティ層にリーチすることが可能となる。

感情的負担の考慮

生成AIを導入する際には、技術に対する感情的な負担を軽減することが重要である。特に、日本においては擬人化やキャラクター化が効果的であると考えられる。

  • 擬人化技術の活用:
    エージェントをキャラクター化することで、ユーザーが技術に対して親近感を持ち、拒否反応を軽減することができる。日本のアニミズム的思考を利用することで、生成AIの受け入れを促進する。
  • 労働環境のストレス軽減:
    生成AIが労働者の心理的な負担を軽減する存在としても機能することが期待される。例えば、対人コミュニケーションの緩衝材としてAIエージェントが役立つことで、ストレスフリーな職場環境の実現に貢献する。

インセンティブ設計

生成AIが社会に広く受け入れられるためには、労働者に対して適切なインセンティブを提供する仕組みが必要である。ここが生成AIを正しく社会実装するために最も重要な論点である。

  • 貢献の定量化と再分配:
    AIを活用して生産性を上げた労働者に対して、その貢献度を定量化し、報酬として還元する仕組みが求められる。これにより、技術の導入によって生まれた利益が公平に分配され、労働者のモチベーションが維持される。
  • 企業、株主、国の役割
    技術の導入と普及を推進するためには、企業が労働者へのインセンティブを設計し、株主が利益を優先せず、国が技術導入に積極的な企業を支援するなど、各主体がそれぞれの役割を果たすことが必要である。

以上の7つの視点を踏まえ、HTN理論は生成AIの導入に関する課題と解決策を提示し、より豊かで効率的な社会の実現を目指す。

5.結言 

HTN理論は、生成AIを活用して社会の能力格差を縮小し、豊かさを追求するための新たな枠組みを提供する。この理論が実現されることで、生成AIは単なる効率化ツールを超え、主観的幸福度を最大化する技術として社会に根付く可能性がある。これを実現するためには、技術の進化とともに、インセンティブ設計やポスト資本主義への転換を進めることが不可欠である。HTN理論を通じて、新たな社会実装の道筋を描き出し、より良い未来を創造することを目指す。


著者

平岡 拓

事業責任者

僕がテクノロジーを好きになったのは、ノーコードツールを使って仕事をサボれた時でした。そこからは、テクノロジーで働く人をもっと豊かにできると思い、国産ノーコードツールのPdMを経て今sattoを始めました。

田島 一毅

執行責任者

ノーコードエンジニアとして、20以上のプロダクトの開発に関わってきました。
ノーコードや生成AIなど、高度な技術を簡単に活用できてしまう世界観やプロダクトが好きです。

西辻 陽平

sattoプロダクトマネージャー

スタートアップ企業でエンジニアをしていましたが、生成AIの誕生によって「世の中が大きく変わる!」と確信し、この分野に飛び込みました。
生成AI時代の働き方/生き方を定義し、「AI→ME愛」な世の中を作るべくsattoの開発に奮闘しています!